2018年06月15日
先日、親しくして頂いている依頼者の方から、弁護士にはなりたくないし自分には務まらないというお話をお聞きしました。理由は、ストレスがとても多そうだからだそうです。これに関し日弁連の機関紙(自由と正義)に、弁護士のメンタルヘルスについてのアンケート結果が出ておりました。それによると、弁護士業務を遂行するにあたって、仕事の不安が原因と思われる症状(ストレス症状)が出たことがあるのかという問いに対し、回答者の65パーセントが現在もしくは過去にストレス症状を経験していると回答しています。さらに深刻なのは、ストレス症状を経験したと回答した弁護士の15パーセントが、自殺を考えたことがあると回答している点です。ストレス症状の原因は、「事件処理や業務負担の重さ」が最多で、以下「人間関係」「経営や収入に対する不安」が上位を占めています。
確かに、弁護士が受任する事件は、個人や法人の重大なトラブルであることが多く、その解決を引き受ける責任は相当に重いものです。また、対立する相手とのやりとり、依頼者との意見調整などもかなり気を使う仕事です。
しかし、私は、弁護士だけが他の職種に比べてストレスが格段に多いとは思いません。仕事をしている以上どのような職種でも、いろいろなストレスはたまるのではないでしょうか。
ちなみに、「自由と正義」に寄稿した産業医によると、ストレス耐性をつけるために①睡眠(1日平均7時間睡眠、週1日の朝寝坊や昼寝などで調整可)、②食事(バランスの良い食事、1日3食とる、よく噛む)が大事だそうです。
またストレス解消法としては、相談相手(配偶者、同業者、友人など)を持つことが大事なようです。人は文字どおり、人に支えられているということでしょうか。
2018年05月15日
事件・紛争が起きた場合、できるだけ早期に、紛争が大きくならないように解決した方がよい場合が多々あります。その方法はいろいろあると思いますが、相手方に代理人弁護士がついている場合、まず面談してみるという方法があります。相手方から書面等で主張が出ていても、書面ではわからない事情があり、それが早期解決につながる場合もあります。私が、相手方代理人に連絡を取って面談の予約をお願いすると大抵それはかなうのですが、たまに面談が拒絶される場合があります。弁護士として正当な理由があってあえて面談をしないという場合もあると思いますが、先日以下のような話を耳にしました。
AさんがB弁護士に事件の依頼をしました。B弁護士は調停をまず申立て、それが不調に終わると地裁に訴訟を提起し、地裁で敗訴したので高裁に控訴したところそこでも負けてしまったというのです。弁護士として目算が狂うことはあるのですが、気になったのは、B弁護士が調停提起から高裁判決まで、相手方の代理人と一切調停や訴訟の手続き外では面談をしなかったということです。
弁護士によって判断は分かれますが、訴訟で十分勝てるという目算がある場合でも、依頼者が特に拒まずデメリットもないならタイミングを見て相手方代理人と面談をした方が良いのではないかと思います。目算は狂うこともありますし、依頼者に有利な早期解決の芽が面談でみつかるかもしれないからです。弁護士として考えさせられる話でした。
2018年04月16日
弁護士の多くは、争いごとの解決や争いごとの未然防止を生業としています。争いには勝ち負けがつきものですから、勝算を読むことが弁護士には求められます。
勝算を判断するファクターとして、①大義名分があるのか、②勝負をするタイミングは適切か、③勝負をする場面は適切か、④応援団として適切な人物がいるのか、⑤勝負する構えができているのかが挙げられます。また①から⑤は、相手や相談者(本人)の状況や動向によって 刻々と変化し、一定していません。
①の大義名分とは、自分だけの利益のための争い事ではないということを指します。私の経験上、自分さえよければそれでよいという相談者はまずおられません。ほとんどの場合、大義名分があります。むしろ本人が気づいていない場合もかなりあります。大義名分がないと本人以外の人(大義名分により相手も譲歩する場合があります)を味方につけることができません。②のタイミングとは、現時点で勝負をした場合の勝ち目のことです。③の場面とは、勝負する場が、話し合いか、司法手続きか、行政手続きか、その他か、また司法手続きでは何がいいのかなどということです。④の応援団とは、本人のために働いてくれる有能な人のことです。本人の会社の部下であったり、家族であったり、関係士業の人であったり様々な人をさします。⑤の構えとは、勝負をするための準備態勢のことで、本人やその関係者は勝負をするために必要な協力ができるのかということです。また弁護士は①から⑤を有利に運ぶために、相手や相談者の状況・動向にも気を配らなければなりません。
ところで、勝負どきとは、必ずしも弁護士の専売特許ではないはずで、人生において、事業においてどなたでも勝負どきはあるはずです。勝負どきに皆さんも上記の内容と似た判断を無意識のうちに行っているはずです。ちなみに、上記①ないし⑤は、中国の古典で有名な兵法書である孫子に、「戦力の優劣を判断するには①道、②天、③地、④将、⑤法によって行う」とあるのを思考の整理のために自分流にアレンジし解釈したものです。
2018年03月16日
最近書店で、「もう一度読む 山川倫理」という本を見つけました。高校の倫理の教科書を社会人向けに出版したものです。ページをめくると古今東西の思想が歴史的な流れに沿ってコンパクトに本質を押さえて書かれています。たとえば、日本人の大切にする和の精神について、聖徳太子の17条憲法にある「和らぎを以て貴しと為し」を持ち出して次のように解説しています。「和の精神というのは、ただ周囲に同調せよという意味ではない。和音という言葉が、さまざまな音が調和して生まれる豊かな響きをさすように、みんなが集まってさまざまな意見を述べあう中から、物事の正しい道理を見出そうとすることである。」私は、驚き感動しました。聖徳太子がこのような民主的な考えをもっていたのかと。和の精神とはこのような意味だったのかと。
しかし、私は、高校時代にもこの本を読んだはずなのですが、このような驚きや感動をした記憶が全くないのです。当時は、倫理社会をよくわからない難しいことが書かれていて興味のわかない科目と思っていました。同じ人間が、同じものを見ても年齢によって感じ方がかなり違うということを実感しました。歳を重ねることが楽しみになりました。ちなみに、倫理とは、私たちが他者とともに、人間らしく生きるための道筋を示すものだそうです。
2018年02月15日
皆さんは配達記録付き内容証明郵便(以下内容証明郵便とします)をご存知でしょうか。日本郵便が、○年○月○日に誰から誰あてに、どのような内容の文書が差し出され、いつ配達されたかを証明するサービスです。
たしかに、一定の期間に通知をしておかないと権利を失う場合、通知の前後で権利の優劣が決まる場合、受取人に差出人の意向を確実に伝える必要性がある場合は、内容証明郵便を出す必要性があります。この場合、内容証明郵便は効果を発揮します。
私は仕事柄、依頼者の代理人として内容証明郵便を出すこともありますが、受けるときもあります。最近は慣れてきましたが、正直なところ、内容証明郵便を受け取るのは、あまり気分の良いものではありません。まして、内容証明郵便など受け取ったこともないと考えられる人がこれを受け取ると、かなりびっくりするのではないでしょうか。
特に、相手方とまず話し合いをしたい場合に、いきなり内容証明郵便を送ると、相手がこわがって、かえって話し合いに応じてこない可能性もあります。これは内容証明郵便の副作用です。そこでこの場合、文面を工夫するとともに、普通郵便で出すようにしています。この手紙を出すことで、相手と不必要な摩擦を起こさずに話し合いに入れる場合もありました。内容証明郵便は、良い効果を発揮する場合もありますが、使い方を誤ると、重い副作用を生じさせます。ある意味で劇薬です。
2018年01月15日
ご依頼者からお受けしている事件の中で、裁判所で和解手続きに入る事案が多くあります。和解が当方のご依頼者に有利に展開しているときはよいのですが、そもそも当方に証拠上有利ではないが、相手が申立(訴え提起など)をしてきたのでやむなく応訴(被告として受けたつこと)したという事案では、和解でも苦しい立場に置かれることがあります。特に、相手が判決の方が有利なので当方の和解案を拒絶し強く判決を望むような場合です。
和解期日(裁判所での和解手続きを行う日)が近づくにつれ、その席でどのような資料を持ってどのように発言すればよいのかいろいろ考えます。たとえば、Aと発言すれば相手方代理人はBというかもしれない、そのときはCと言おう。Bと発言すればどうなるだろう・・・といろいろ考えます。
人間は追いつめられるといろいろアイデアが浮かぶもので、苦しい和解のために裁判所に向かう途中が一番冴えます。和解手続きのための部屋に入ると、主導権をまず握るために口火を切ります。しかし、シミュレーションとおりに展開するとは限りません。このような場合も、頭がフル回転しているせいか不思議と対応できます。最後は「なんとか和解をまとめたい」という熱意が重要です。それが裁判官や相手方代理人に伝わると、裁判官から新たなアイデアが出て、相手方代理人もさほど抵抗せず(むしろ当方に協力的になる場合があります)和解続行となる場合があります。
熱意の有無強弱が、事件の解決に影響を及ぼすことは間違いないと思います。
2017年12月16日
弁護士は,対立した相手と交渉をして話をまとめ上げることを一つの生業としています。そのために傾聴が大事だと言うことをいろいろな場面でお話ししています。傾聴することにより,相手がこちらの意見を聞く下地ができます。傾聴というのは相手の心を開かせます。
問題は次に何を話すかです。開いた心を閉ざすようになっては困ります。私は,傾聴後に話す内容は大きく二つに分けられるような気がします。一つは,お互いにメリットがある(お互いが幸せになる)内容を見つけて話すことです。もう一つは,相手にとっては耳の痛いことかもしれませんが,自分の信じていることをしっかり話すということだと思います。皆さんは耳の痛いことを話すと相手は心を閉ざすのではないかと危惧するかもしれません。私は,相手が心を閉ざすのを防ぐためにまず相手に,「あなたにとって耳の痛いことを話しますが・・・」「弁護士だからまず堅い話をさせてください・・・」などといって,これから相手があまり聴きたくない話をするための心の準備をしてもらいます。それから,自分の信じていること納得していることを話します。
自分の信じていること納得していることは,いわば心で理解していることなので,相手の心に響きます。人の心を動かすには心で話すことがまず大事なのではないでしょうか。
2017年11月15日
自分の事務所で法律相談をしていると,弁護士会の法律相談を受けたら暗い気持ちになったという話をたまに聞くことがあります。その原因としては,弁護士が自分の結論を押しつけるというのが多いようです。私も弁護士会の法律相談を担当しているのですが,時間が限定され延長が許されない場合も多く,相談者のお話を十分にお聴きすることができない場合もございます。ただし,私は,そのような場合でも,自分の事務所で更にお話をお聴きしましょうとか,弁護士会で継続して相談をお受けになってはどうですかとアドバイスをするようにして,結論を押しつけにならないように努めています。
そもそも人は自分の話をしっかり聴いてもらわないと,他人のアドバイスも耳に入らないものです。また,解決の方向性が自分でもわからず悩んだり,緊張してうまく話のできない相談者もいらっしゃいます。1時間ぐらい話をお聴きしていて帰り際にご相談者のご希望がわかったという場合もあります。また,人の気持ちというものは一定していないので,初回のご相談ではAという方向性を希望していたご相談者が2回目のご相談ではBという方向性を希望するということもよくあります。
このようなことを弁護士が理解していないと,相談者の気持ちと弁護士の気持ちがずれて弁護士が自分の結論を押しつけてしまう場合が生じます。仮にこのようなことを理解していたとしても,自分と他人は,全く違う人生を歩んできたのですから,知らず知らずのうちに結論の押しつけになる場合も生じます。それを防ぐためには,相談者が自分に話しやすいような雰囲気を作ることがまず大事です。また,私の事務所では,ほぼ全事件を,私と若手弁護士の共同で担当するようにしており,私に言いづらいことでも若手弁護士に,若手弁護士に話しづらいことは私に話せるような仕組みを作っています。そして,相談者と自分の考えのずれが判明した場合は,すみやかにそのずれを埋めるように努力しています。
2017年10月13日
よく現場主義こそ弁護士の魅力,弁護士の命といわれます。現場主義の中で私が大事にしているものとして,面談をする(電話やEメールなどで大事な話をしない)ということがあります。
よく電話で相談してもよろしいですか,Eメールで相談してもよろしいですかとおっしゃる方がいらっしゃいます。私は原則として面談の形をとらせていただいております。面談が特に威力を発揮するのは,①難事件の反論を作るときと②依頼者と解決策を見つけるとき③相手方と交渉をするときです。
難しく反論がなかなか浮かばない事件については,依頼者の話を再度じっくり聴くことにしています。難しい刑事事件の場合,刑事は現場に何度も足を運ぶといわれますが,弁護士は悩んだら依頼者の話をもう一度聴くというのが大事だと思います。先入観を持たずに,相談者と同じ気持ちになろうと真剣にお聴きしていると,自分がその相談者の体験を追体験するということになります。つまり,法律家として相談者と同じ体験をすることになります。すると不思議と説得力のある反論が浮かびます。
事件の岐路に立ち,依頼者と方向性を決めなければならないときも面談は威力を発揮します。私は事件の解決によって依頼者が精神的にも安定が得られる事が大事だと思っています。そのためには,弁護士としてアドバイスはしますが,解決策を自分で見つけてもらうことが大事なのです。面談してじっくりお話をお聴きしていると不思議とご依頼者が納得する方向性が出てきます。
相手方と交渉するときも面談は威力を発揮します。交渉は真剣勝負です。私の事件解決への思い,気迫といったもので相手が動く場合もあります。これは面談でないと伝わりません。
今後も,面談を大事にしていきたいと思います。
2017年08月10日
好評につき合同労組・ユニオン対策マニュアルの3訂版が発売されました。
3訂版では、最新の対組合戦略及び具体的な団体交渉のテクニックを解説しています。
また、組合員が問題社員である場合、外国人労働者に対する団体交渉、組合からの資料請求への対応、非正規労働者に特化した組合などへの対応について新たに解説をしました。
労働組合対策でお困りの使用者の皆様のお役に立てれば幸いです。
2017年07月06日
民事裁判では,判決よりも和解で解決することもかなり多くなっています。今月は一般的には知られていない裁判上の和解についてお話ししたいと思います。
和解にも二種類あり,心証開示型(裁判所の判決の見通しを告げる)和解と交渉型(当事者間の合意を媒介する)和解に分かれます。結論を判決で出すと妥当な結論が導けない場合に,交渉型の和解を裁判所は進めます。交渉型の和解の場合,本来勝ち筋側に譲歩させるわけですが,これがなぜうまくいく場合があるのか,不思議に思われませんか。判決で勝訴できるなら和解する必要はないと一般的には考えられるわけですから。
交渉型の和解がうまく成立する場合を,親族間の紛争を例にとり説明しますと,①まず勝訴判決を得られる側が判決では親族間の争いが決着しないということに気づき,②裁判官が勝訴判決を得られる側に上手にアプローチをすることが交渉型の和解を成立させる決め手になる場合があります。
①についていえば,裁判は三審制ですから,理論的には3回争えますし,その問題が決着しても,当事者間で別の問題が起こればそれについて争えます。また,民事裁判で決着したことであっても,話し合いで更に調整しようとすることも可能です。つまり判決が一度出れば親族間の紛争が解決するとは限らず,恨みが続き紛争が永続する可能性があるのです。このことに裁判の過程で勝訴する側が気づくと和解の機運が高まります(特に負け筋側の代理人弁護士はこれを勝訴する側に気づかせるのも役割です)。
②についていえば,裁判所が,親族間の紛争の実態を的確に把握し,勝訴判決を得られる側のキーパーソンを見つけ出し和解の席に呼び(キーパーソンは裁判の当事者ではない場合もあります。特に親族間の事件では,当事者の配偶者がキーパーソンであるといったことがあります。),キーパーソンにもメリットのある和解案を考え(負け筋側の代理人弁護士は裁判官にキーパーソンを伝え,勝ち筋側も興味を示せる和解案を裁判所に提案するのも役割です),和解に十分な時間を費やすことです。このようにすると,本来和解など考えられない事案でも和解が成立することがあるのです。
交渉型和解が成立すると当事者双方とも恨みの感情から解き放たれる(少なくとも軽減される)ことになります。親族間の紛争は当事者のメンタル面に多大な影響を与えるので,このメリットはかなり大きいものです。
親族間の問題等なにかございましたら,お気軽に当事務所までご相談ください。
2017年05月10日
奈良恒則弁護士、佐藤量大弁護士、端山智弁護士、及び髙橋顕太郎弁護士が執筆した「ミドル層採用時の情報収集 経歴詐称ミスマッチ等への対応」が、ビジネスガイド2017年6月号(日本法令)に掲載されました。
2016年07月15日
「ありがとう」の反対語は「当たり前」だと云われます。「ありがとう」は有り難し=滅多にないことに由来するからです。このことを知っているという方も多いのではないでしょうか。では「ありがとう」を常日頃から口に出して言っている方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。
私は司法試験に合格後、7年ほど弁護士事務所に勤務しましたが、夜遅くまで、土日も仕事をしていました。本来働く対価として報酬をいただくので働くのが「当たり前」です。それでも一所懸命働いているところを認めてもらい、更に重要な案件を任されると益々働こうという気になりました。
その後独立し事務員や弁護士を雇い始めると、もちろん働いてもらっていることに感謝はしているのですが、「ありがとう」とあまり口に出して言わなくなってきました。私は「ありがとう」と口に出して言わなくてもわかるのではないか、むしろ対価をもらう以上働いてもらうのが当たり前、仕事の質を向上させるために注意をするのが当たり前という気持ちが強くなっていたのかもしれません。
あるとき、クライアントの社長が事務員とご相談にいらっしゃった際、事務員に対し「いろいろ資料を集めてもらってありがとう、大変だと思うがもう少し資料を集めてもらえるかな」とおっしゃっていました。これを聞いていて、とてもすがすがしい気持ちになりました。それ以来、意識して「ありがとう」と口に出して言うように心がけています。感謝の心は口に出すと相手のみならず周囲も気持ちよくなるからです。
2016年07月15日
平成28年5月23日に東京地方裁判所で出された、定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう勤務先の横浜市の運送会社に求めた訴訟の判決の続報です。 判決を見ると有期労働契約に嘱託社員も勤務場所及び担当業務を変更する旨の規定があるなどの理由で、職務の内容のみならず、職務の内容及び配置変更の範囲が正社員と同一と判断しています。そこで、現時点では、有期労働契約の嘱託社員では、勤務場所及び職務内容の変更をしないとか、正社員と異なるものにしておいた方が無難だと言えます。
2016年05月23日
平成28年5月13日に東京地方裁判所で、定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう勤務先の横浜市の運送会社に求めた訴訟の判決が有りました。
同判決は、「『特段の事情』が無い限り同じ業務にもかかわらず賃金格差を設けることは不合理だと指摘。この会社については、再雇用時の賃下げで賃金コスト圧縮を必要とするような財務・経営状況ではなかったとして特段の事情はなかったと判断した。コストを抑制しつつ定年後の雇用確保のために賃下げをすること自体には『合理性はある』と認めつつ、業務は変わらないまま賃金を下げる慣行が社会通念上、広く受け入れられているという証拠はないと指摘。コスト圧縮の手段とすることは正当化されない。」(平成28年5月14日付の朝日新聞)という内容とのことです。
同判決は、定年後再雇用した従業員の賃金減額の適法性を判断した裁判例として注目されています。
なお、控訴の有無等の詳細が分かりましたら後日お伝えします。
2016年04月08日
中央労働委員会命令平成28年3月14日【平成27年(不再)第11号】
事案の概要
使用者の所在地が東京都、労働組合の所在地が石川県という、両当事者が遠隔地に所在をしていました。
第1回の団体交渉は使用者の希望により、使用者の所在地である東京都内で行われ、その団体交渉の中で、労働組合から第2回以降は団体交渉を東京都内と石川県内で交互に開催することを提案が行われましたが、使用者が東京都内での開催を強く主張したため、団体交渉の開催地について合意には至りませんでした。
後日、労働組合が、東京都内と石川県内の交互開催を前提としつつも、第2回団体交渉に限り、使用者の要請があれば東京都内での開催に応じる意向を明らかにしたが、使用者は上記主張を譲りませんでした。
そこで、労働組合は、第2回団体交渉申入れにおいては石川県内を開催場所として指定したが、使用者は自らの主張に合理性がある旨回答するのみであったので、不当労働行為救済申立を行いました。
中央労働委員会の判断
「上記の一連の経緯に鑑みれば、従業員組合側が団体交渉の場において相応の合理性があると評価できる提案をし、また、事後にはそれなりの譲歩をしているのに対し、使用者側は団体交渉において相手方の提案を検討する姿勢もなく、後日においても自らの主張を繰り返すのみで、提案を受け入れられない理由を十分説明しているとは到底いえない。使用者のこのような対応は、従業員組合側からの提案としては相応の合理性のある従業員組合の交互開催という提案を真摯に検討することなく、東京都内での団交開催という自らの見解に固執したというべきであって、対等な団交当事者としての従業員組合を軽視して第2回団交申入れに応じなかったものといわざるを得ない。」として、労組法第7条第2号の正当な理由のない団交拒否に当たると判断しました。
ポイント
上記事案では、両当事者が遠隔地に所在しているにもかかわらず、使用者が使用者の所在地で団体交渉を行うことに固執することは、労働組合側が遠隔地に出向かなければならないという不利益を一方的に負担することになるので、合理的理由のない団体交渉場所の指定であると判断され、それを理由とした団交拒否は不当労働行為に当たるとされました。
しかし、団体交渉のルール設定(日時、交渉時間、出席者など)において労働組合側の要求が優先されるなかで、団体交渉を行う場所については、使用者が指定した場所が労働組合側にとって特別に不便がない限り、その指定した場所以外で団体交渉に応じないとしても、正当な理由ある拒否として不当労働行為に当たらないと解されています。
裁判例(大阪地裁判決昭和62年11月30日労働判例508号28頁)でも、「(団体交渉の開催場所について)合意の整わない場合において使用者が一方的に就業場所以外の場所を指定したとしても、そのことに合理的な理由があり、かつ、当該指定場所で団体交渉をすることが労働者に格別の不利益をもたらさないときには、使用者がその場所以外での団体交渉に応じないとすることをもって不当労働行為にあたると解すべきではない。」と判示されています。
2016年02月03日
中央労働委員会命令平成28年1月22日(平成26年(不再)第34号)
2015年11月19日、大手クレジットカード会社・株式会社ジェーシービー(以下「JCB」と言います。)の常務執行役員(当時)2名と部長(当時)2名の合計4名が、労働基準法違反の疑いで書類送検されました。JCBは、2014年2月から3月にかけて、本社勤務の社員7人に対し、労使協定で取り決めた時間外労働時間の限度(月80時間)を超え、1カ月当たり約93~147時間の時間外労働をさせていた疑いがあるとのことです(なお、残業代は支払われていたそうです)。
書類送検にまで至った経緯は、JCBは過去10年間に複数回、労働基準監督署から是正勧告を受けていましたが、改善がなされていなかったということがあったようです。
これを受けてJCBは自社のホームページに以下のようなコメントを載せています。
『当社では、2014年7月1日付で、総労働時間削減を目的とした全社横断的な組織として、社長を委員長とする「時間外削減対策委員会」を組成し、全社業務量の削減など時間外勤務の削減に留まらず、「働き方」にまで踏み込んだ労働時間短縮策に取り組んでおります。委員会の組成から1年半近く経過しておりますが、組成以来、労使協定違反は発生しておりません。』
当初から、このような対応を行っていれば書類送検にまで至ることは無く、また大々的に報道されて悪評が流布されるリスクに曝されることもなかったものと考えられます。
したがって、是正勧告を受けたら放置することなく、是正勧告の内容に疑問点がある場合には担当の労働基準監督官に質した上で、是正する必要を認めた場合には是正する姿勢を示す必要があります。
事案の概要
会社がいわゆる「みなし残業代」として支給していた営業手当が,割増賃金の支払いとして有効か否かが争われた事案。
営業手当は,給与体系の変更により従来支給していた住宅手当,配偶者手当等を廃止して新たに導入されたものでした。
給与体系の変更の際,労働者に交付された給与変更辞令には,「基本本給18万5000円,営業手当12万5000円,内訳として,時間外勤務手当8万2000円,休日出勤手当2万5000円,深夜勤務手当1万8000円」と記載されていました。なお,請求の対象となった期間は,基本給が約24万5000円,営業手当が約18万円(約100時間分の残業代に相当)支給されていました。
裁判所の判断
裁判所は,営業手当が100時間分の残業代に当たるということに着目して以下のように判断をしました。
36協定の延長限度時間に関する基準において,許容されている法定時間外労働時間が月45時間であるところ,100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが労働基準法の趣旨に反することは明らかであるから,法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で,営業手当の支払が合意されたとの事実を認めることは困難であるとして,営業手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有するという解釈は採れないと判断しました。
そして,営業手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有するという解釈が採れない以上,営業手当は割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分についての区分が明確となっていないから,割増賃金の支払とは認めることは出来ないと判断しました。
その結果,会社に対し651万4074円の支払いを命じるという判断をしました。
なお,一審は,約1万4000円の支払いを会社に命じるという実質的に会社側勝訴の判断をしていました。
労務管理におけるポイント
上記裁判例を踏まえると,いわゆる「みなし残業代」と言われるものを導入する際には,その支給額を36協定により許容される時間外労働時間の上限である月45時間分の時間外労働割増賃金に相当する額を上限として支給する必要があります。
これを超えて「みなし残業代」を支給してしまうと,割増賃金の支払いとして認められないばかりか,「みなし残業代」が割増賃金計算の基礎単価(基礎賃金)に含まれてしまい,より残業代が高くなるという2重のリスクを負う可能性があるので,注意が必要です。
東京地裁判決平成26年1月14日
ゼネラルマネージャー(以下、「GM」)として採用した男性従業員がセクハラ等GMとして不適切な行為を行ったとして、会社は当該従業員をGMから業務部マネージャーに異動(降格)させ、賃金の減額を行いました。当該従業員がGMの地位にあることの確認等を求めた訴訟で、裁判所は降格及び賃金の減額いずれも有効であるとの判断を示しました。
判断のポイント
降格については、複数の女性従業員の羞恥心を害するセクハラ行為を行っていたことが認められるうえ、裁判上は認定するまで至らない行為についても会社の聴聞会で特に争っていなかったことも併せて考慮すれば、業務全般を統括するGMとしての適格性が欠けるとした会社の判断に裁量の逸脱は認められないとして、有効と判断されました。
賃金の減額については、役職に応じて支払われる職務手当の減額と各人の職務遂行能力に応じて支給される職能給の減額が行われていたので、それぞれ分けて減額の有効性の検討が行われました。まず、職務手当の減額については、マネージャーの地位に変更されたことによりマネージャーに対する手当に変更されたのであって当然の措置であるとして有効性を認めました。また、職能給については、給与規程に勤務成績の著しく不良の者に対して降給(職能等級の引き下げ)できることを定めており、当該従業員はこれにあたるとして、職能等級の引き下げに伴う職務手当の減額についても有効性を認めました。
労務管理上の対策
上記裁判例では役職の降格に伴う賃金の減額の有効性の判断は、まず①役職の降格自体が有効か否かを判断し、次に役職の降格は有効として②役職の降格に伴う賃金の減額が有効か否かを判断するというように、2段階で判断をしています。したがって、賃金減額を伴う降格を検討する場合には、このような順序で有効性を検討することが有用です。
なお、上記裁判例の職能給のように各人の職務遂行能力に応じて支給される賃金(◯級□号棒などと職務遂行能力の格付けに応じて支給額が決定するもの)については、就業規則等に降給(職能等級の引き下げ)を予定する規定を設けていないと、原則として降給(職能等級の引き下げ)は行うことが出来ないと解されています。これは、各人の職務遂行能力に応じて支給される賃金制度はそもそも一度獲得した能力が低下することは無いという理解を前提としているためです。
40回以上の契約更新をしてきた有期雇用労働者との契約を終了させるため,会社が最後の更新時に「今回をもって最終契約とする」旨の文言が記載された労働契約書を作成し,当該契約書に有期雇用労働者の署名押印を得ました。そのため,会社は合意により契約が終了したものと扱いましたが,当該有期雇用労働者が労働契約上の地位の確認を求めた訴訟で,裁判所は,当該有期雇用労働者が労働契約を終了させる明確な意思を有していたとは認められないとして合意による契約の終了を認めず,雇止めが行われたという認定を行いました。
ポイント
上記裁判例では,労働契約を終了させることは著しく不利益なことであるから,労働契約を終了させる合意があったと認めるためにはその旨の労働者の意思が明確でなければならないと解すべきであるとの判断基準を示しました。
そのうえで,当該有期雇用労働者は,「今回をもって最終契約とする」旨の文言が記載された労働契約書に署名押印する際に特段の申出や質問をしなかったが,雇用継続を望む労働者にとっては労働契約を直ちに打ち切られることを恐れて使用者の提示した条件での労働契約の締結に異議を述べることは困難であると考えられることに照らすと,これらの事情(署名押印する際に特段の申出や質問をしなかったこと)だけでは,当該有期雇用労働者が労働契約を終了させる明確な意思を有していたと認めることは出来ないと判断をしています。
つまり,労働者に不利な合意をする際には,合意したという形式だけでなく,労働者の真意がどうであったのかということを裁判所は非常に重視していることが,この裁判例からわかります。
労務管理上の対策
労働者の真意は,上記裁判例のように契約の終了の場面だけでなく,賃金の減額の場面でも問題となることが多いです。
労働者と合意をする場合,合意を書面で残すことは当然ですが,それだけでなく充分に時間をかけて丁寧に内容を説明するなどして,会社側の意向を労働者に押し付けたと言われないような手続を行っておくことが,後々紛争になることを予防し,万が一紛争になった場合に合意を無効とされないための対策として有用であると考えます。
最高裁判所平成24年4月27日第二小法廷判決
当該従業員は,実際には事実として存在しないにもかかわらず,同僚らから嫌がらせを受けているという被害妄想があり,会社に休職を申し入れましたが,会社は休職を認めませんでした。そこで,当該従業員自身が嫌がらせ等の問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨を会社にあらかじめ伝えた上で,有休休暇を全て取得した後,約40日にわたり欠勤を続けました。会社は,当該従業員に対して,就業規則所定の懲戒事由である会社が正当な理由のない無断欠勤があったとの理由で諭旨退職の懲戒処分を行いましたが,就業規則所定の懲戒事由を欠き懲戒処分は無効であると判断されました。
ポイント
裁判所は,会社としては,精神科医による健康診断を実施するなどした上で(就業規則には,必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことが出来る旨の定めがありました。),その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見る等の対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく懲戒処分の措置をとることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応として適切なものとは言い難いと判断しています。
労務管理上の対策
就業規則の規定等の労働契約上の根拠なく,会社が従業員に対して受診命令を発することが出来るかは争いがあるところです。そのため,就業規則等の内容を確認して,受診命令を発する根拠規定が無い場合には,これを設けておくことが望ましいです。 また,特にメンタルヘルスに問題を抱えている人は,自身に問題があることを認識していない,またはそのことを認めようとしないこともあるため,直ちに受診命令を発してしまうと,そのことによりさらに症状が悪化する可能性もあります。そこで,メンタルヘルスに問題を抱える従業員に対しては,原則としてまずは受診を促し,それを当該従業員が拒否した場合に,受診命令を発するようにすべきと考えます。もっとも,状況が切迫しているなど直ちに受診命令を発する必要がある場合もありますので,原則にこだわり過ぎず,ケースに応じて柔軟に対応すべきです。
仕事の上でも私生活の上でも、自分で結論を出さなければならないときがあります。結論を出す以上できれば正しい結論を出したいと皆思います。
しかし、自分一人で考えていても、昨日と今日で結論が違うということを皆さんは経験したことはありませんか。また他の人の話を聞いているうちに別の結論に行き着いたという経験はありませんか。
人間の能力には限界があるので、正しい結論を見つけようとするより、正しい結論を導くのにふさわしい過程は何かを考えた方が良い場合があります。
先ほどの、一晩考えてから再度結論を出したり、相談してから結論を出したり、他の人と議論してから結論を出すことは、正しい結論に近づくための手段になりうるのです。
しかし、正しい結論に近づくにはそれだけで十分ではありません。たとえば、相談や議論を自分の当初の考えを確認するためだけにするならあまり意味がありません。まず相談や議論を経て情報収集後に自分で結論を出すということが大事です。そのために、①適切な相談相手や議論をする相手を選ぶ(場合によっては相手の役割を決める)、②自分のポジションを決める(自分がどこで関与するのか)ことが大事です。たとえば、裁判官が合議で結論を出す場合、まず経験の浅い裁判官から意見を言わせ、裁判長は最後に意見を言うそうです。先に、経験豊富な裁判長が先に意見を言うと若い裁判官がなかなか意見を言いづらいという配慮からだそうです。また、私の事務所でも、事件について複数の弁護士で議論し結論を出します。その際、若い弁護士には疑問点や反対論を出すように促していますし、出なければ私が出すようにしています。疑問点や反対論をつぶしていくことで正しい結論に近づくと考えられるからです。
正しい結論をいきなり求めるより、正しい結論に近づく過程を探求した方が結果的には正しい結論に近づきやすくなるのではないでしょうか。まさに急がば回れです。
東京地裁判決平成25年5月22日
従業員に対し事業所内に入退場する際にタイムカードを打刻させていましたが,時間外労働については,所属長が毎日個別具体的に時間外労働命令書によって時間外労働を命じ,実際に行われた時間外勤務については時間外勤務が終わった後に本人が実労働時間として記載し,翌日それを所属長が確認することによって労働時間が把握されていたとして,タイムカードの打刻時間に基づく労働者の残業代請求を認めなかった裁判例。
ポイント
タイムカードがある場合,タイムカードによって労働時間の管理が行われていたと推認して,原則タイムカードの打刻時間に基づいて労働時間を認定するというのが裁判実務ですが,上記の裁判例では,残業許可制を上記のように厳格に運用していたため,タイムカードではなく,労働者本人が申告し所属長が確認した時間が労働時間であるとの認定がなされています。
労務管理への活用
従業員が業務の必要が無いにも関わらずダラダラと居残っている場合に,残業許可制を採用することで,残業代の縮減や従業員の作業効率の向上が期待できます。
ただし,残業許可制を就業規則等に定めた場合であっても,従業員が業務命令や申請なく残業を行っている場合に黙認をしていたり,業務上の必要が認められるのに残業を許可しないなど,不適切な運用をしてしまうと残業許可制は口実に過ぎないとして,タイムカードによって労働時間が認定されてしまいます。
したがって,残業許可制を採用する場合には,厳格な運用が必要となります。
2014年11月30日
株式会社日本法令セミナー 「最新版「合同労組・ユニオン」徹底対策セミナー」において、 労働組合の実態やマニュアル本にないノウハウの重要性などを講演し、受講者アンケートで 非常に満足度の高いセミナーとの評価をいただきました。
2014年12月18日
TBSラジオ「荒川デイ・キャッチ!」出演。「大阪市の入れ墨調査は違憲という地裁判決について」 評論家山田五郎さんにインタビューを受けました。法律的観点からこの裁判をわかりやすく説明しました。
2014年02月24日
先日、裁判に関し教訓になる話を聞きました。 原告に有利な書面の証拠が少なく尋問が唯一頼りと思われる事案です。裁判所は、原告に和解を勧めましたが拒否されたので、原告本人と被告本人の尋問を行うと決定しました。 被告本人は尋問に際し、通常より時間を要してしまうという事情がありました。原告代理人は、裁判所に対し、このような事情のある被告に対しては十分な反対尋問ができないとして被告本人の尋問取消を求めました。原告代理人は、尋問に手間がかかるので反対尋問の時間を延ばして欲しいといえば足りるはずですが、被告本人の尋問がなくなれば原告に有利になる可能性があると考えたのかもしれません。尋問当日、裁判所は、まず原告の尋問を行いました。反対尋問の中で、原告の証言の矛盾点が明らかになりました。裁判所は、原告の尋問が終わったのち、被告の尋問を突然取り消し直ちに判決を出すことにしました。 裁判所の意図は、『原告本人への反対尋問で原告の供述の信用性が完全に崩れているので、被告本人の尋問を経なくとも被告勝訴の判決が書ける』、『原告代理人が被告本人の尋問取消を求めるなら反対尋問権の放棄なのだから言うとおりにしてあげる。文句ないでしょう』、『せっかく和解も勧めたのにそれも拒否しているのだから判決しかありませんね』ということなのです。 原告代理人とすれば、有利な書面による証拠が少ない事案なら、原告本人の尋問に全力を傾注し立証を成功させ、万が一に備えて和解の途も残しておくべきでした。(それができない事情があったのかもしれませんが)
自分が不利な立場にあるとき、それを打開するために十分な見通しを立てずに奇策に頼るのは危険です。ピンチのときこそまず冷静に足元を固めるべきです。これは、裁判だけではなく、日常生活やビジネス一般にも通じることではないでしょうか。
2013年08月26日
会議や打ち合わせをすると、なりゆきで十分な議論もなされないままものごとが決まっていきそうな場面に遭遇することがあります。 これがいわゆる場の雰囲気というものだと思います。雰囲気を形成する原因としては、感情論や精神論が前面に出てきてそれに水を差すような議論ができなくなる、メンバーの一部(現場)が先行して行動してしまい追認せざるを得ない状況になってくる、楽観論が出てくるとそれに期待を寄せそれ以上の議論ができにくくなる、メンバーの人間関係に配慮し意見を差し控えるなどが考えられます。 これらの原因が、いわばその場の同調圧力となってものごとが決まってしまうのです。雰囲気で結論を出すと、十分な検証がなされていないので失敗するリスクも高くなります。
このようなことは、最近始まったことではありません。太平洋戦争を開始する際、山本五十六が「やれといわれれば半年や一年は暴れてご覧にいれますが、2年、3年となっては確信が持てません」といっていたのに、「緒戦で勝って太平洋の資源をおさえればアメリカは戦意を喪失するだろうし、長期戦になっても負けるとは限らない」という楽観論に期待する雰囲気が強くなり真珠湾攻撃が決まっていったという説があります。もちろん太平洋戦争のような国家の大事を決める際にはさらに複雑な要因もからんでいたと思います。
では、日常の会議や打ち合わせにおいて雰囲気で結論を出さないためには、どうすればいいのでしょうか。私は、目的と手段を議論することだと思います。会議や打ち合わせで議論し目指す目的は何か、その目的は正しいのか、目的実現の可能性はどの程度あるのか、目的達成にふさわしい手段は何かなどです。皆さんも打ち合わせや会議の参考にしてみてください。2013年06月18日
弁護士の重要な仕事にクライアントから事情を聞くことがあります。事情を聞いていると、有利な事情(相手方の不当性)ばかり出てくる場合があります。人は自己に不利な事情は話したがらないからです。この聞き取りだけで、事件を受任し戦い始めると戦略ミスを犯し大変なことになります。 そこで、事情を聞く場合には、クライアントに不利な事情も話してもらう必要があります。しかし、不利な事情を話してもらっただけでは不十分なのです。不利な事情があれば、なぜその不利な事情が発生したのか、背景は何か、そのときのクライアントの気持ち・動機はどのようなものであったかなどを詳しく聞かなければなりません。そうすることで見えなかった有利な事実が見えてきます。 次に自分の頭の中で積み重なった有利な事実が映画の映像(ストーリー)として見えてくればしめたものです。これを書面化して裁判所に出せば、裁判官も、私と同様に書面化された映像(ストーリー)を見ることになるのです。文字よりも映像の方が、インパクトがあります。 「読み手が頭の中で映像化できるような文書を書く」ということを皆さんのビジネスでも参考にしてみてはいかがでしょうか。
2013年04月19日
一般社団法人神奈川県情報サービス産業協会において、平成25年4月19日に、最近問題となっている労務トラブルへの対応実務として、パワハラ問題への対応、問題社員への対応、うつ病社員への対応、合同労組への対応として講演を致しました。大変好評でした。